PEDを用いたSARS-CoV-2 (COVID-19)の変異検出

• 配列をPEDで解析すると以下の図のように患者から得られたウイルスのゲノム上に起きた変異を見ることができます。図をクリックすると大きくなります。
  
• 左の図の23kbのあたりのスパイクタンパク質をコードしているs遺伝子のsの文字の下あたりにある赤い縦線が23403の塩基位置のA→Gの塩基置換変異でアスパラギン酸からグリシンへのD614G変異となります。
  この場合、5人中3人がこの変異を持っていることになります。
  最近では、大部分の人からのウイルスがこの変異を持っています。
  おそらくこの変異を持っている方が、ヒト側の受容体タンパクのアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)に結合しやすいのではないかと思われます。
• 右のグラフは、イギリスで昨年末から発生した変異株がもつ変異を選んで患者全体の中の変異株の割合を変異ごとに描いています。NCBIから公開されている配列データをダウンロードして、PEDで解析した結果です。
  1ヶ月程度の周期で変異株の割合が増減しているのがわかります。
  N501Yで代表されるこれらの変異が2月末までに大多数に置き換わりましたが、5月に入ると状況は一変して、デルタ株と呼ばれているL452Rを持つ変異株に置き換わっています。6月に入るとデルタ株にほぼ置き換わってしまいました。
  インド由来と言われている変異株は、L452RとE484Qを持つと言われていますが、イギリスで増えている変異株はL452R単独でE484Qは持っていないようです。

Ubuntuのインストール

• Ubuntu Desktop 日本語 Remixより日本語版のISOイメージのファイルをダウンロードします。
• Ubuntu 20.04 LTSインストールガイド【スクリーンショットつき解説】が詳しいので参考にしてインストールしてください。
  PEDは解析時間をできるだけ短くするため、CPUの限界近くまで負荷がかかりますのでほかのOSとの共存は避けた方がいいです。
  使わなくなった古いコンピュータなどにインストールして専用にするのがお勧めです。
  マルチスレッドで動作しますので、4あるいは8コアのCPUを用いると早く処理できます。
  VirtualBoxを用いてWindowsマシンで解析する方法や、クラウドで実行する方法もあります。

PEDのセットアップと解析例

• 必要なソフトをダウンロードとインストールを行います。

  $ sudo apt update
  $ sudo apt upgrade
  $ sudo apt install curl
  $ sudo apt install git
  $ git clone https://github.com/akiomiyao/ped.git

• NCBIのアーカイブのダウンロードにはsratoolkitに含まれるfastq-dumpが必要です。
  最近のバージョンのfastq-dumpは使用前にvdb-configコマンドで実行環境を設定する必要があります。
  設定方法は、[fastq-dumpの設定]のページに記載しました。
• NCBI sequence read archive (SRA)から各患者から得られた配列をダウンロードします。
  $ cd ped
  $ perl download.pl accession=SRR11513115
  $ perl download.pl accession=SRR11513116
  $ perl download.pl accession=SRR11513117
  $ perl download.pl accession=SRR11513118
  $ perl download.pl accession=SRR11542243
  $ perl download.pl accession=SRR11542244
  
• ped.plで多型検出を行います。
  $ perl ped.pl target=SRR11513115,ref=SARS-CoV-2
  $ perl ped.pl target=SRR11513116,ref=SARS-CoV-2
  $ perl ped.pl target=SRR11513117,ref=SARS-CoV-2
  $ perl ped.pl target=SRR11513118,ref=SARS-CoV-2
  $ perl ped.pl target=SRR11542243,ref=SARS-CoV-2
  $ perl ped.pl target=SRR11542244,ref=SARS-CoV-2
  
• Dockerを用いる場合は、以下のようにします。ped.plを直接実行する場合は不要です。
  $ sudo apt install docker
  $ sudo apt install docker.io
  で、docker関連のプログラムがインストールできます。
  実行例
  $ sudo docker pull akiomiyao/ped
  $ sudo docker run -w /ped -v `pwd`:/work akiomiyao/ped perl download.pl accession=SRR11513115,wd=/work
  $ sudo docker run -w /ped -v `pwd`:/work akiomiyao/ped perl ped.pl target=SRR11513115,ref=SARS-CoV-2,wd=/work
  上記コマンドをコピー・ペーストしてアクセッション名等の値を修正して実行するのが楽です。
  Googleのクラウドやアマゾンウェブサービス(AWS)でも実行可能です。
• プライベートなデータの解析
  お持ちのプライベートなfastqファイルを解析する場合は、download.plを実行した時にできるディレクトリ構造と同じディレクトリ構造でリードデータを配置します。
  例
  $ cd ped
  $ mkdir your_sample1
  $ mkdir your_sample1/read
  $ cp read_data_dir/foo.fastq your_sample1/read
  $ perl ped.pl target=your_sample1,ref=ref=SARS-CoV-2
  ped.plのターゲット名は、作ったディレクトリ名を指定します。
  fastqファイルは、.gz、.bzip2、.xz等の拡張子のついた圧縮ファイルの状態でも、そのままped.plで解析できます。
  解析結果一式は、your_sample1のディレクトリに出力されます。
• clippingについて
  ped.plはリード長が一定の配列データを解析するように作られています。RNA由来の配列データは、リード長が不ぞろいな場合が多いです。
  以前は、check_length.plで至適のclipping長を求めて、ped.plを走らせるときに指定する必要がありましたが、ped.plに自動でclippingする機能を持たせました。
  自動clippingの値が不満な場合は、従来どおり手動で指定することもできます。
  例
  $ perl check_length.pl target=SRR11513115
  で至適のclipping長を求めます。90～95%のリードをカバーする長さでいいと思います。
  $ perl ped.pl target=SRR11513115,ref=SARS-CoV-2,clipping=146
  
• Integrative Genomics Viewer (IVG)を用いた結果の閲覧
  Integrative Genomics Viewer (IVG)はBroad Instituteで作成されたアプリケーションです。
  Webアプリケーション https://igv.org/app/が便利です
  クリックすると大きくなります。
  Genomeのプルダウンメニューより Sars-CoV-2 (ASM985889v3)を選びます。
  以下の解析済みvcfファイルをダウンロードします。
  'Tracks'のプルダウンメニューの中の'Local file'を選んでvcfファイルを取り込みます。
  
  もしIVGを自分のコンピュータで起動させて見たい場合は from http://software.broadinstitute.org/software/igv/downloadよりプログラムをダウンロードしてインストールしてください。
  IVG のGenomesのタブをクリックして、"SARS-CoV-2.fasta"と"SARS-CoV-2.gff"をロードします。
  Fileタブをクリックして"ped/SRR11513115/SRR11513115.vcf"等のvcfファイルをロードして多型を表示させます。
  
• 双方向アラインメント上の多型の確認
  pedディレクトリで
  
  $ perl search.pl target=target,chr=chromosome,pos=position
  
  を実行します。 例えば
  
  $ perl search.pl target=SRR11542244,chr=NC_045512.2,pos=5872
  
  あるいは
  
  $ sudo docker run -w /ped -v `pwd`:/work akiomiyao/ped perl search.pl target=SRR11542244,chr=NC_045512.2,pos=5872,wd=/work
  
  以下は、出力の一部です。
  

  # NC_045512.2 5872 NC_045512.2 5870 f deletion -1
  CTTACAAAGTCCTCAGAATA GTTACTTATAAATTGGATGG 0
                                                    ChrNC_045512.2 5872
                                                    |
  CTTACAAAGTCCTCAGAATACAAAGGTCCTATTACGGATGTTTTCTACAAAGAAAACAGTTACACAACAACCATAAAACCAGTTACTTATAAATTGGATG
  ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||  |||    |     |  | |   ||| |   |   |   || | |   |
  CTTACAAAGTCCTCAGAATACAAAGGTCCTATTACGGATGTTTTCTACAAGAAAACAGTTACACAACAACCATAAAACCAGTTACTTATAAATTGGATGG
   |   ||   |     |    || |  |   |   |    |||     ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
  TTACAAAGTCCTCAGAATACAAAGGTCCTATTACGGATGTTTTCTACAAAGAAAACAGTTACACAACAACCATAAAACCAGTTACTTATAAATTGGATGG
                                                 |
                                                 ChrNC_045512.2 5870
  

  vcfファイルは、indelの始まる一つ前の塩基の位置を出力しますが、ped.plのアラインメントでは、変異が始まった最初の塩基の位置を出力しています。
  indelのアラインメントの検索を行う場合は、vcfファイルの位置に1を加えた値で検索してください。
• 確認用ファイル
  SARS-CoV-2.fasta From NCBI
  SARS-CoV-2.gff From NCBI
  SRR11542243.count.vcf Sample from University Malaya
  SRR11542244.count.vcf Sample from University Malaya
  SRR11513115.count.vcf Sample from Utah Public Health Laboratory
  SRR11513116.count.vcf Sample from Utah Public Health Laboratory
  SRR11513117.count.vcf Sample from Utah Public Health Laboratory
  SRR11513118.count.vcf Sample from Utah Public Health Laboratory
  
• コメント
  Intel Core i5-4210M CPU @ 2.60 GHz (2 cores, 4 threads), 8GB memoryのコンピュータで2分ほどで結果がでます。
  イルミナのシーケンサではきれいな結果が得られますが、nanoporeではノイズが多い結果になります。さらなる条件検討が必要です。
  vcfファイルはtarget.vcf、target.full.vcf、target.count.vcfの3種類が出力されます。
  ・target.vcfは検出された多型を持つリードと持たないリードを数えて遺伝子型が出力されています。IGVでは転座に関して対応していないのと、大きな欠失があると見づらくなるので、80bpの欠失や転座は出力しないようにしています。
  ・target.full.vcfは、上記のフィルターをかける前の結果です。
  ・target.count.vcfは多型を持つリードと持たないリードの数を調べずに、単純にリードから検出された多型の数でまとめた結果です。
  SARS-CoV-2の場合、ウイルス自体が単一でなく変異が異なる複数の種類のウイルスが混在しているので、厚く読んだデータの場合通常のvcfファイルでは、うまく検出されない場合があることがわかりました。検算をしないで、それぞれの部位で何回変異が検出されたかを単純に出力するtarget.count.vcfファイルで変異を確認することをお勧めします。
• 謝辞
  Dr Ilkka HavukkalaにPEDのテストをしてもらいました。また、IVGに関する有益なアドバイスをもらいました。
  

PEDに関する資料

• スクリプト: https://github.com/akiomiyao/ped/
• 論文: Polymorphic edge detection (PED): two efficient methods of polymorphism detection from next-generation sequencing data (2019) BMC Bioinformatics 20(1):362

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